三代目 佐伯和起 
 初代、二代目とは山の実力、キャリアにおいては数段落ちる分、口が達者で、イワナ釣り、鉄砲撃ち、
と一通りはこなすが、やはりすべて初代、二代目には及ばない・・・。
 ただ、立山で過ごした時間だけが一番長い三代目である。
 四年前まで二足のわらじを履いていて、地元建設会社に勤務、ネパール支店を担当していた。
 在職中はネパールからの研修生の受け入れも十年間に渡り行い延べ88人のネパール人の教え子
がいて、未だに教え子との交流は絶えない。ネパールへの渡航歴は数十回を数え、クンブーエリアは
第二の古里。
 現在は剱御前小舎の経営にに専念し、「剱御前のずぼら親爺」で通っている。
 今年五十八歳になって、気付けばもう剱御前小舎親爺を三十三年間もやっている・・・・・・・・。
  

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   昭和二十七年十一月四日三代目和起は、父宗弘母稲子の長男として生まれた。
 その誕生日が四日と、祖父宗作の命日に当たることから、祖母のヒデは和起を宗作の生まれ変わりと信じ、溺愛
した。その分和起は「婆ちゃん子」で、3文どころか5,6文安く仕上がってしまうことになる・・・。
 
    和起は祖母のヒデから「じいじ(祖父宗作)の話」を聞き育った。祖母の語る祖父はまさしく和起のヒーローとなった。
 南極だ、日本山脈縦走だと留守がちな父宗弘だったが、母稲子、祖母ヒデの愛情を一身に、和起は何不自由なく、
我が儘いっぱいの腕白に育っていった。
 小学校の3,4年生からは、父宗弘の経営していた剱御前小舎で夏休みを過ごすのが和起の楽しみになっていた。
 
   酷い腕白がそのまま高校、大学と進んで、それなりの山登りを自分も気づかぬ中に始めていた。
 大学時代の4年は、休みと言えば全て山でのアルバイトに明け暮れた。
 営林署の高山植物パトロールを皮切りに、薬師沢小屋、太郎小屋でのバイトの明け暮れは今でも親爺の心に残る
思い出の宝庫。
 この山でのバイトの間、和起は父や祖父の踏み後を、北アルプス全域で肌に感じた。 
   和起も社会に出、生保会社に2年勤務の後、地元建設会社に建設会社に勤務を始めた。
 昭和52年の暮れ、父宗弘が剱御前小舎の経営権を得、和起に小屋の経営を委ねた。
 昭和53年春、和起は喜び勇んで剱御前小舎の経営に携わることとなった・・・・・。 
   山小屋の経営に着手はしたものの、まだ若い和起は不安定な山小屋経営だけでは不安であった。
 勤務先の社長の理解を得、勤め人と剱御前小舎の経営者と云う二足のわらじを履いた生活がスタートした。
 そして昭和55年10月、和起は憧れ続けたネパールヒマラヤに入り、約2ヶ月をヒマラヤで過ごした。
 和起にとって初めてのネパール、初めてのヒマラヤだった。
   和起がネパールから帰った翌年、昭和56年8月1日のことだった。思いもよらぬ出来事が和起を襲った。
 剱御前小舎が全焼したのだ。真夏の晴天続きでからからに乾いた、老朽化した山小屋にゴミ焼中の火の粉が
が飛び火した・・・・・。昼火事だったため、けが人が無かったのが不幸中の幸いだった。
 「和起では無理だ。俺が再建する。」宗弘が剱御前小舎の再建を一身に引き受けた・・・。
   昭和57年7月剱御前小舎は再建され営業も再開され、和起はその暮れに高岡市出身の久子と所帯を持った。
 そして和起の二足草鞋の生活は続いた。平日は会社勤務をし、土曜日の午後には剱御前小舎に上がり、日曜
の午後か月曜の早朝に端に下りて勤務につく。
 そんな生活だが、若い和起には苦にならなかった。
 そして和起も三人の娘の親となっていた・・・。
   山荘組合の青年部での玉山登山を皮切りに、立山ガイド協会の再編、ネパールとの交流と和起の周囲も慌た
だしさを増してきた。
 そんな中、気付けば和起も40代、勤務先の会社がネパール支店を開設することになった・・・。
    和起はネパール通いが仕事になる。ネパールからの研修生の受け入れも行うようになり、多忙な日々が続き、
山小屋業務は支配人に任せる時間が多くなって来て、なかなか山へ入れない年が続いた。
   いつしか50代。和起は祖父宗作の生きた年を遙かに超えた自分をしみじみと想った。
 そして心から山へ、立山へ帰りたいと願うようになった。
 長年世話になった会社の社長は、和起の竹馬の友。ネパールの支店開設、研修生の受け入れ、そしてネパール
との交流も共にして来た。和起の退社の申し出を「お前がそれで良いのなら。」と受け入れてくれた。 
   五十四歳になった和起は晴れて「剱御前小舎親爺」業に専念することとなった。
 心平支配人や、緑裏支配人等に支えられ、剱御前小舎のずぼら親爺として、五十八歳の今も剱御前小舎でずぼ
らを決め込んでいる。
   
   
   
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